私たちは「散歩」という時間をごく自然に日課として過ごしています。そんな日々の中で、ふと立ち止まって考えてみたくなることがあります。この子にとってこの時間は足りているだろうか? 体も心もちょうどよく満たされているだろうか?
「小さいから少なくていい」「大きいから長く歩かなきゃ」といったように、犬のサイズだけでざっくり運動量を決めてしまうことがあります。たしかに、体の大きさに応じて必要な運動量には目安があります。でも、犬にとって本当に必要な運動量とは、体格だけでは測れないもの。犬種の特性や年齢、性格、日々のコンディション状態までもが深く関係しているのです。
たとえば、ジャック・ラッセル・テリア。体重5〜6kgほどの小型犬ですが、狩猟本能とスタミナにあふれ、短い散歩だけでは満足できないこともしばしば。目と鼻と足をフルに使って、頭を働かせながら動くことが生きがいの犬種です。15分の散歩よりも、5分のノーズワークのほうがよっぽど疲れる、そんなこともあります。
一方で、グレート・デーンのような超大型犬はどうでしょう。見た目の迫力とは裏腹に、関節や心臓への負担を考慮して、むやみに長く歩かせるのは避けたいケースもあります。大切なのは、時間や距離ではなく、その子にとっての心地よさ。たとえば景色のある道をゆっくりと歩くような、穏やかな散歩こそが、身体と心の両方を満たしてくれるのです。
つまり、散歩で本当に大事なのは「どれだけ動いたか」ではなく、その内容がその子に合っていたかどうか。
「運動の量ではなく質」に目を向けてみることが大切ですね。同じ30分の散歩でも、どの犬にとっても同じ意味を持つわけではありません。犬にとっての「時間」と「満たされる」は、必ずしもイコールではないのです。
散歩後に吠えが増えたり、室内でそわそわ落ち着かない様子だったり、外では勢いよく引っぱるのに家ではぼんやりしている。こういったサインは体力の余りというよりも、「気持ちの未消化」かもしれません。
散歩という時間を「足りているか」ではなく、「合っているか」で考えること。そこには、私たち飼い主の工夫が必要になってきますね。本当に満たされる散歩とは、距離でも時間でもありません。それは、その子に合わせたコーディネートから生まれるものです。小さいから少なくていい。大きいからたくさん歩かないといけない。そんな固定観念を少し横に置いてみることで、これからの散歩は、きっともっと自由で、もっと心に響く時間になっていくはずです。犬とともに、今日をていねいに過ごすこと。それが、いちばんの満足につながるのかもしれません。